1.ソフトバンクの事業構造:「45%の基幹事業」を超えて目指す意外な成長戦略
きらく(会議室のホワイトボードの前で)
「今日はソフトバンクの決算分析の前に、まず事業構造を整理しておきましょう」
あおい
「ソフトバンクの事業は5つのセグメントに分かれていますよね」
【説明】セグメントとは、企業の事業を分野別に区分したもの。収益性や成長性を詳しく分析するために使われます。投資家は各セグメントの業績を比較することで、企業の強みや課題を理解できます。
きらく(ホワイトボードに図を描きながら)
「そうね。主力の『コンシューマ』は個人向けの携帯電話やブロードバンド、電力サービスを提供。全売上高の45.0%を占める基幹事業よ」
【説明】基幹事業とは、企業の収益の中心となる主力事業のこと。安定した収益基盤として企業の成長を支えます。
銭太郎
「法人向けは『エンタープライズ』っスよね!」
きらく
「ええ。法人向けの通信サービスに加えて、デジタル化支援やクラウドなどのソリューションを提供しているわ。売上高の約13.7%を占めているわね」
【説明】売上高は企業の総収入額のこと。パーセンテージで示すことで、各事業の規模感が分かりやすくなります。
【説明】ソリューションとは、企業が抱える課題を解決するためのサービスや製品のこと。法人向けビジネスでは重要な収益源となっています。
あおい
「『メディア・EC』はヤフーとLINEが中心ですよね」
【説明】ECとは、Electronic Commerce(電子商取引)の略。インターネットを通じた商品やサービスの売買のことです。
きらく(チャートを指しながら)
「その通り。売上高の25.4%を占める重要セグメントね。『ディストリビューション』は法人・個人向けのICT商材の提供で約10.8%、そして『ファイナンス』はPayPayを中心とした決済・金融サービスで約3.8%という構成ね」
【説明】ICTとはInformation and Communication Technologyの略で、情報通信技術のこと。パソコンやスマートフォン、通信機器などが該当します。
【説明】ディストリビューションとは、商品の流通・販売事業のこと。メーカーと顧客をつなぐ重要な役割を担います。
銭太郎
「でも最近は変化が激しいっスよね?」
きらく(腕を組んで)
「ええ。Beyond Carrier戦略の下で、通信事業者から総合テクノロジー企業への転換を進めているわ。では、具体的な数字を見ていきましょうか」
【説明】Beyond Carrier戦略とは、通信会社の枠を超えて、AI・IoT・フィンテックなど様々な分野に事業を拡大していく成長戦略のことです。
【説明】AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、フィンテック(金融テクノロジー)は、現代のテクノロジー企業における重要な成長分野です。
2.好調な決算内容:「全セグメント増収増益」の裏に隠された意外な成長要因
【説明】ソフトバンクは日本の大手通信事業者で、東証プライム市場に上場しています。決算内容は投資判断の最も重要な材料の一つです。
あおい「所長、ソフトバンクの2024年第2四半期の決算が発表されましたね」
【説明】四半期決算とは、3ヶ月ごとの企業業績の報告のこと。投資家は決算内容から企業の成長性や収益力を判断します。
きらく(エスプレッソを丁寧に淹れながら)「ええ、今日はその分析をしましょう」
銭太郎「売上高が3兆1,521億円で前年同期比7.4%増、営業利益が5,859億円で13.9%増、親会社の所有者に帰属する純利益も3,239億円で7.2%増というのは、すごいっスゼニ!」
【説明】売上高は企業の総売上、営業利益は本業での儲け(売上高から売上原価と販管費を引いた額)、親会社の所有者に帰属する純利益は最終的な親会社株主に帰属する利益(営業利益から金融収支や税金などを差し引いた額)を表します。前年同期比とは、前年の同じ期間と比べた増減率です。
きらく(データを見つめながら)「この数字の背景には、複数の成功要因があるのよ。まず、通信事業で2023年10月から導入した新料金プランの効果が出始めていて、当第2四半期では平均単価が前年同期比で小幅な増加となった。さらに、PayPayを含むファイナンス事業が黒字化を達成し、エンタープライズ事業も企業のDX需要を着実に取り込んでいるわ」
【説明】ARPU(Average Revenue Per User)とは、1契約者あたりの月間平均収入のこと。携帯電話会社の収益性を測る重要な指標です。黒字化とは、赤字(損失)から利益が出る状態に転換することを指します。PayPayは、ソフトバンクが展開するスマートフォン決済サービスです。
あおい「エンタープライズ事業の成長率11.0%という数字は、日本企業のDX投資の加速を表していると見ていいんですか?」
【説明】DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用して企業の業務やサービスを変革すること。エンタープライズ事業は法人向けITサービス事業を指します。
きらく(うなずきながら)「一概にそうとは言えないわ。売上高4,458億円のうち、ソリューション等の売上が2,049億円と大きく伸びている要因として、WeWork Japan合同会社のシェアオフィス事業の承継と、Cubic Telecom社の子会社化の影響が含まれているの。ただし、クラウドサービス、IoTソリューション、セキュリティソリューションなどの売上も確かに増加しており、企業のデジタル化需要をとらえることができているわね」
【説明】WeWork Japan合同会社からのシェアオフィス事業承継は、オフィス関連サービスの強化につながります。また、アイルランドのCubic Telecom社は自動車向けIoTプラットフォームを提供する企業で、2024年3月の買収により、ソフトバンクは車両向けの通信プラットフォーム事業を強化しました。これらM&A(合併・買収)や事業承継による増収は、通常の事業活動による自然成長とは区別して考える必要があります。
銭太郎「なるほど! 単純な数字の増減だけでなく、その中身をしっかり見ていく必要があるんですね」
きらく「その通りよ。全てのセグメントで増収増益となっているのは素晴らしいけれど、その要因を正確に理解することが投資判断には重要なの」
【説明】決算分析のポイント:
- 前年同期比での成長率:事業の成長性を示す基本指標
- 各事業セグメントの収益性:事業ポートフォリオの健全性を評価
- 成長要因の分析:M&Aなどの特殊要因と既存事業の自然成長を区別
- 市場動向との関連性:業界環境の変化が業績に与える影響を把握
- 将来の成長への投資状況:持続的成長のための施策を確認
3.ソフトバンクが加速させる事業構造改革:「エンジニアとAIの融合」が生み出す4,458億円の新市場
銭太郎「でも、競合他社も次々と新サービスを出してきてるっスよね」
【説明】通信業界では各社が顧客獲得のために新しいサービスを投入し、競争が激化しています。
きらく(チャートを指しながら)「だからこそ、ソフトバンクは事業構造の改革を加速させているのよ。例えば、今年9月に実施したSBテクノロジーの完全子会社化には大きな意味があるわ」
【説明】事業構造改革とは、企業が競争力を高めるために、事業の仕組みや組織を見直し改善することです。
【説明】完全子会社化とは、親会社が子会社の株式を100%所有することです。経営の意思決定を迅速に行えるようになります。
あおい「どういった意味でしょうか?」
きらく「SBテクノロジーが持つエンジニアやセキュリティ・クラウドサービスと、ソフトバンクの顧客基盤、エンジニア、ネットワーク、AI・IoT・5G・デジタルマーケティングなどの経営資源を組み合わせることができるの。両社が一体となることで、DX推進を課題としている顧客に効果的なITサービスを提供できるようになるわ。実際、エンタープライズ事業の売上高は前年同期比11%増の4,458億円まで伸びているのよ」
【説明】クラウドとは、インターネットを通じてコンピューターの機能を提供するサービスのことです。
【説明】DXとはデジタルトランスフォーメーションの略で、デジタル技術の活用による社会の変革を指します。
【説明】エンタープライズ事業とは、法人向けのモバイルサービス、固定通信サービス、各種ソリューションサービスを提供する事業です。
4.決済事業の躍進:PayPayが仕掛けるファイナンス革命
【説明】決済取扱高とは、PayPayを使って決済された総額のことです。この数字が大きいほど、サービスが広く使われている証拠となります。
きらく(PayPayのグラフを表示しながら)
「そして、特筆すべきはPayPayの成長ね。PayPay連結の決済取扱高が3.7兆円に達したわ。しかも月間アクティブユーザー数も3,452万人まで伸びている」
【説明】月間アクティブユーザー数(MTU)とは、1ヶ月の間に1回以上サービスを利用したユーザー数のことです。登録しているだけでなく、実際に使っているユーザーの数を示す重要な指標です。
銭太郎
「でも、決済事業ってまだ赤字が続いてる企業も多いっスよね?」
【説明】決済事業は、最初はユーザー獲得のために多額の広告費や販促費を使うため、赤字になりやすい特徴があります。また、決済手数料は小さいため、大きな利益を出すにはかなりの取扱高が必要になります。
きらく(にっこりと)
「だからこそ、ファイナンス事業セグメントが136億円の黒字を達成したのは重要な転換点なの。PayPayの6,572万人という登録ユーザー数は、単なる数字ではないわ。これだけの顧客基盤があれば、さまざまなファイナンスサービスへの展開も可能になってくる」
【説明】セグメント利益とは、その事業部門での営業利益のことです。黒字化は、事業が軌道に乗り始めた証拠と言えます。
【説明】「顧客基盤」とは、サービスを利用する顧客の総体のことです。決済サービスの利用者に対して、ローンや保険など、より収益性の高い金融サービスを提供できる可能性が広がります。
あおい
「確かに、決済取扱高の増加に伴って、収益機会も広がってきているんですね」
【説明】「収益機会」とは、お金を稼ぐことができるチャンスのことです。決済サービスを入り口として、様々な金融サービスに展開することで、新たな収益源を作ることができます。
5.AI時代への布石:「2,000億円の大型調達」に隠された次世代戦略
きらく(資料をめくりながら)「そして、最も重要な動きが、第2回社債型種類株式の発行よ。1株8,000円で2,500万株、総額2,000億円の調達となるわ」
【説明】社債型種類株式とは、普通株式とは異なる種類の株式で、配当が固定され、議決権がない代わりに優先的に配当を受け取れる権利を持つ株式のことです。企業にとっては議決権の希薄化を避けながら資金調達できるメリットがあります。
【説明】資金調達とは、企業が事業活動に必要な資金を集めることです。株式発行による調達は、借入と異なり返済義務がない反面、株主に対する配当義務が生じます。
銭太郎「AI関連の投資っスよね!」
きらく(真剣な表情で)「その通り。調達資金は、生成AIを用いたサービスの実現と次世代社会インフラの構築が主な目的とされているわ。これは将来の収益構造を大きく変える可能性がある」
【説明】生成AIとは、ChatGPTのような、文章・画像・音声などを自動生成できる人工知能のことです。次世代社会インフラとは、このような先端技術を支える通信・計算処理などの基盤設備を指します。
【説明】収益構造とは、企業がどのような事業活動によって利益を生み出しているかを示す仕組みのことです。新しい技術への投資は、将来的な収益源の確保につながる可能性があります。
あおい「どういうことでしょうか?」
きらく「ソフトバンクはすでにAI計算基盤への投資を始めていて、今期の第2四半期までの長期性の成長投資として487億円を投じているの。生成AI時代の次世代インフラとして、このような投資を継続的に行うことで、企業価値の向上を目指しているのよ」
【説明】AI計算基盤とは、AIの計算処理を行うための大規模なコンピューターシステムのことです。長期性の成長投資とは、短期的な収益よりも、将来の成長のために行う投資を指します。
【説明】企業価値とは、その企業の将来的な価値を総合的に評価したものです。将来性のある分野への投資は、一時的なコストとなりますが、長期的な企業価値の向上につながると期待されています。