ビジネスという名のギャンブルは、ギャンブルという名のビジネスを厳しい軽蔑の目でもって見ている
“The gambling known as business looks with austere disfavor upon the business known as gambling.”
アンブローズ・ビアス、アメリカ合衆国の軍人、作家、ジャーナリスト
ビジネスという名のギャンブルは、ギャンブルという名のビジネスを厳しい軽蔑の目でもって見ている
アンブローズ・ビアスの「ビジネスという名のギャンブルは、ギャンブルという名のビジネスを厳しい軽蔑の目でもって見ている」という言葉は、ビジネスとギャンブルの複雑な関係性を巧みに表現しています。
この言葉は、ビジネスの世界とギャンブルの世界が、表面上は異なるものの、根本的な構造とリスクにおいて多くの共通点を持っていることを示唆しています。
しかし、社会的な認識としては、これら二つは全く異なるものとして扱われています。
想像してみてください。あなたがおもちゃ屋を開くとします。
お店を開くとき、どんなおもちゃが人気であるかを考えたり、どれくらい売れるか予想したりするでしょう。これが「ビジネス」というものです。
ビジネス、特に起業や投資の世界では、リスクを取ることが必須です。成功するためには、未知の市場に進出したり、新しい製品を開発したりする必要もあります。
これらの行動は、未来の不確実性の中で行われるため、ある意味で「賭け」の性質を持っています。
しかし、ビジネスのリスクは通常、徹底的な市場調査、戦略的計画、そして慎重な意思決定に基づいています。
一方で、ギャンブルは一般的に、偶然や運に大きく依存する活動と見なされています。
ここでのリスクは、しばしば計算されたものではなく、確率の法則や偶発性に大きく左右されます。
ビジネス界では、このような不確実性の高いリスクを取ることは、一般的に避けられる傾向にあります。
ビアスの言葉は、ビジネス界が自身のリスクを合理的かつ必要なものと見なし、一方でギャンブルのリスクを軽蔑するという、この二重基準を指摘しています。
つまり、『ビジネスの人たちは、自分たちはしっかり考えて計画を立てているから偉いと思っています。
他方、ギャンブルをする人たちがリスクを取ることについては、あまり良くないことをしていると考えています。
でも、実はビジネスもギャンブルも、ちょっと似ているんです。どちらも、何が起こるかわからないリスクをとることです。
でも、ビジネスの人たちはそれを全く違うように考えているだよね(笑)』
というビアスの皮肉がこの言葉には込められています。
ビジネスとギャンブルは全く別もの?
ギャンブルやある種のビジネスは、特に投資の場合、紙一重の関係にあります。
数学者のエド・ソープ1がカードカウンティング(ブラックジャックで場に出ていないカードを記憶して、ゲームを有利に進める戦法)の理論をギャンブル戦略として活用すると、その戦略を解説した彼の著書は、多くの証券アナリスト、ギャンブラー達の刺激となり、彼自身もまた世界初のクォンツ系ヘッジ・ファンド・マネージャーとしてのキャリアを積み上げていきました。
ギャンブルは、運や確率の基本的な分析方法の実例を提供し、ギャンブラーが直面する論理的な間違いを理解するのを手伝ってくれます。
こうしたギャンブル界の理論や論理的な間違いは、よりリスクの低い投資やビジネスに対しても、そのまま活用できる場合があります。
結局のところ、ビジネスにおけるリスク取りは賞賛されることが多く、ギャンブルにおけるそれは軽蔑されがちですが、根底にあるリスクの本質は驚くほど似ているのです。
- 数学者にしてギャンブラー、世界初のクォンツ系ヘッジファンドの創始者。クォンツとは、コンピューターを駆使した金融分析(計量分析)のこと。 ↩︎