国内製薬界のキング 武田薬品
今回は製薬最大手の武田薬品工業の決算と財務諸表のデータをまとめます。
武田薬品工業は、日本を拠点とするグローバルなバイオ医薬品企業で、研究開発に重点を置いています。主な治療分野は中枢神経消化器及び希少疾患です。
基本情報は、こちらの表のとおりです。
今回は、武田薬品を、成長性、効率性、現金の生成能力、財務の安定性、割安性の5つの観点から総合的に分析・評価します。
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株価のチャート
株価のチャートは、こちらのとおりです。
過去5年間の株価のパフォーマンスは、マイナス4.71%となっています。
最新の決算
武田薬品は2月1日に決算を発表しています。
24年3月期第3四半期累計(4-12月)の連結最終利益は前年同期比48.6%減の1470億円に落ち込みましたが、通期計画の930億円に対する進捗率が158.2%と上回り、さらに5年平均の92.1%も超えました。
直近3ヵ月の実績である10-12月期(3Q)の連結最終利益は前年同期比11.3%減の1057億円に減り、売上営業利益率は前年同期の13.4%から9.4%に低下しました。
2024年第3四半期累計のハイライト
日本における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンによる売上は減少したものの、為替相場が円安に推移したことや、免疫疾患、消化器系疾患および希少疾患において事業が好調に推移したことにより、2024年第3四半期累計の売上高は増収となりました。
特に成長製品・新製品の売上収益は、12.7%成長(CERベース)の力強い成長を遂げ、売上高の43%を占めました。
地域別の売上高
武田薬品の2024年第3四半期累計の地域別売上高を見ると、米国市場が最も大きなシェアを占めており、全体の約52.5%に相当する1兆6855億円の売上があります。
これに次ぐのは欧州及びカナダで、全体の約22.5%、7,215億円の売上があります。日本国内の売上は3,426億円で、全体の約10.7%を占めています。
日本を除くアジアの売上は1,888億円で全体の約5.9%、中南米は1,384億円で全体の約4.3%、ロシアは454億円で約1.4%、その他の地域で907億円、約2.8%の売上があります。
これらの数値から、武田薬品の売上は特に米国市場に依存している状況が見て取れます。
地域別の売上高の成長率
武田薬品の2024年第3四半期累計の地域別売上高の前年同期比成長率を見ると、米国市場が3.9%の成長を示しています。
欧州及びカナダは14.1%、日本を除くアジアは11.7%、中南米は14.0%と、これらの地域での成長が顕著です。
一方で、日本市場は12.1%の減少を記録し、ロシアでは31.9%の大幅な落ち込みがあります。
その他の地域では29.2%と非常に高い成長率を示しています。
事業別の売上高
武田薬品の2024年第3四半期累計の事業別売上高を見ると、消化器系疾患が最も大きなシェアを占めており、売上高は9,361億円で全体の約29.1%です。
次いで免疫疾患が6,112億円で約19.0%、希少疾患が5,851億円で約18.2%と続きます。ニューロサイエンス部門は4,749億円で約14.8%、オンコロジー部門は3,463億円で約10.8%、その他の事業が2,594億円で約8.1%の売上を記録しています。
これらのデータから、武田薬品は特に消化器系疾患の治療に強みを持っており、全体的に多様な疾患領域にわたって事業を展開していることがわかります。
事業別の売上高の成長率
武田薬品の2024年第3四半期累計の事業別成長率は、免疫疾患部門が最も高く21.7%の増加を記録しています。
次いで消化器系疾患が9.2%、希少疾患が5.7%の成長を示しました。オンコロジー部門は0.4%とほぼ横ばいで、ニューロサイエンス部門はわずかに0.5%減少しました。
その他の事業部は22.7%と大幅に減少しています。
これらのデータから、免疫疾患部門の顕著な成長が武田薬品の全体的なパフォーマンス向上に寄与している一方で、その他の部門では苦戦している様子が窺えます。
年間配当と配当利回りの推移
武田薬品の年間配当は2020年から2023年まで180円を維持していますが、配当利回りは変動しており、2020年が5.44%、2021年が4.52%、2022年が5.15%、そして2023年が4.14%です。
2024年の予想では、配当が188円に増加し、利回りが4.49%になると見込まれています。
総還元性向とは?
総還元性向とは、会社が儲けた利益を、配当や自社株買いという形で、株主に対してどれくらい還元しているかを表す指標です。
総還元性向が高いほど、株主還元に力を入れている企業であることを示します。
ただし、株主への還元が多いことは、設備投資などに使用できる資金が少なくなる可能性があります。
総還元性向
武田薬品の総還元性向は、2019年に128.9%で始まり、2020年には異常な752.8%に跳ね上がりました。
その後、2021年には75.4%に大きく低下し、2022年には再び156.8%に上昇、2023年には96.6%となりました。
EPS
EPSとは、「Earnings Per Share」の略で、1株当たり純利益ともいわれます。
EPSからわかることは、企業の「収益力」と「成長性」の2つです。
数値が高いほど企業の収益力は高いと見ることができます。
また、同じ企業の当期EPSと前期以前のEPSを比較することで、企業が順調に成長しているか判断することもできます。
武田薬品のEPSは2023年に一時的な成長を見せたものの、2024年は急速な減少が続いています。
特に2024年は第1四半期から大幅な減少が目立ち、第2四半期には最大の75.4%の減少を記録しました。
売上高の推移
武田薬品の売上高は2023年度第1四半期に9724億6500万円となり、第3四半期には最高の1兆965億5100万円に達しました。
2024年度に入り成長率が低下し、第3四半期は1兆111億8600万円で1.3%の増加にとどまりました。
経常利益とは?
経常利益は、本業における利益だけでなく、企業の持つ資産の運用利益や銀行からの利息など、事業を行って得た利益です。
経常利益は、売上高と営業外収益を足した値から、販売した商品の原価である売上原価と、販売のためのコストである販管費、営業外費用を除くと求めることができます。
経常利益の推移
武田薬品の経常利益は2023年第1四半期に1554億7300万円から始まり、年間を通じて変動が激しく、第4四半期には478億1500万円で188.7%の大幅な増加を記録しました。
しかし、2024年に入ると第2四半期にはマイナス959億8000万円で大幅な減少を示し、その後も苦戦が続きました。
経常利益率とは?
経常利益率は、売上高に占める経常利益の割合を示したものです。
この割合が高いほど、本業以外の収益や費用を含めた会社全体の収益力が強いと判断できます。
経常利益率
武田薬品の2023年第4四半期から2024年第3四半期の経常利益率については、2023年第4四半期を除いた3つの四半期で前期の利益率を下回っており、利益率は下降傾向にあります。
「利益」は意見、「キャッシュ」は現実
損益計算書(PL)に記載される売上高などの「利益」は、本来であれば来期に立つ売上を、今期の売上として計上することや架空の売上を立てることで、意図的に「利益」を過大に見せること、いわゆる粉飾が可能であり、明らかな粉飾でない限り、このような粉飾を見抜くことは難しいと言われています。
他方、キャッシュフロー計算書(CF)に記載される営業キャッシュフローなどの「キャッシュ」は、実際にどれだけの現金が出入りしたのかを表し、意図的な調整をする余地がありません。
そのため、会計の世界では、『「利益」は意見、「キャッシュ」は現実』、または『キャッシュフローは嘘をつかない』とされています。
また、損益計算書では黒字にも関わらず、倒産してしまう「黒字倒産」の原因は、売上が発生しても、その入金、現金収入が大幅に遅れ、企業が現金不足に陥ることで起こるとされています。
そのため、企業の「利益」だけでなく、企業の「キャッシュ」を確認することが重要です。
営業キャッシュフロー
営業キャッシュフローは、企業の営業活動で得られた現金収入です。
武田薬品の営業キャッシュフローは2019年の3284億7900万円から急増し、2020年には6697億7520万円、2021年には1兆109億310万円と成長しました。
2022年には1兆123億1050万円に達しましたが、2023年には9771億5600万円に減少し、成長率がマイナス13.0%となりました。
営業キャッシュフローマージンとは?
営業キャッシュフローマージンは、売上高に占める営業キャッシュフローの割合を示したものです。
この割合が高いほど、企業が売上から多くの現金収入を得ていることを意味し、現金を稼ぐ能力が高いと判断できます。
なお、「MarketHack流 世界一わかりやすい米国式投資の技法」によると、営業キャッシュフローマージンは、理想として15%から35%程度あると素晴らしいとされています。
営業キャッシュフローマージン
武田薬品の営業キャッシュフローマージンは2019年の15.66%から2021年に31.61%へ大幅に増加しましたが、2023年には24.26%に減少しました。
アクルアールとは?
アクルアールは、企業が現金収入を伴った質の高い利益をあげているかを判断する指標です。
アクルアールは純利益から営業キャッシュフローを引いた値で計算されます。
アクルアール=純利益(特別損益を除く)ー営業キャッシュフロー
純利益は、全ての収入から全ての支出を除いた利益であり、いわゆる会計上の利益です。
他方、営業キャッシュフローは、企業の営業活動で得られた現金収入です。
例えばA社のように、アクルアールがマイナスの場合、企業が多くの現金を営業活動から生み出し、現金収入が会計上の利益を上回っていることを意味します。これはA社が現金収入を伴う質の高い利益を生み出していることを示します。
逆に、B社のようにアクルアールがプラスの場合は、現金収入が会計上の利益を下回り、現金収入を伴わない質の低い利益を生み出している状況を示しています。
アクルアール
武田薬品のアクルアールは2019年から2023年にかけて一貫してマイナスを記録し、特に2022年には最大のマイナス8930億4600万円に達しました。
これは会計上の利益を上回る現金収入があり、質の高い利益を示しています。
自己株式調整済み負債比率とは?
自己株式調整済み負債比率は、企業の抱える負債が、純資産に対して何倍あるのかを示しています。
自己株式調整済み負債比率は、以下の式で求めることができます。
自己株式調整済み負債比率=負債÷(純資産ー自己株式)
この比率が低ければ、純資産に対して負債が少なく、財務が健全であると見なされます。
「史上最強の投資家 バフェットの財務諸表を読む力」によると、自己株式調整済み負債比率が0.80を下回ることが望ましいとアメリカの著名な投資家である、ウォーレン・バフェットは言います。
自己株式調整済み負債比率
武田薬品の自己株式調整済み負債比率は2023年第3四半期に1.17で始まり、2024年第3四半期には1.10に改善しました。
しかし、これらの数値はウォーレン・バフェットが推奨する0.80を上回っており、企業の財務リスクが高いことを示しています。
固定長期適合率とは?
固定長期適合率は、企業の固定資産が、純資産と固定負債といった安定した資金で賄えているかどうかを示す指標です。
固定長期適合率は、以下の式で求めることができます。
固定長期適合率=固定資産÷(純資産+固定負債)
一般的に、この比率が100%以下であると、企業の固定資産が安定した資金でまかなえており、会社の財務状況が安定していると判断できます。
固定長期適合率
武田薬品の固定長期適合率は、2023年第3四半期に96.81%から始まり、2024年第1四半期に一時的に100.24%を超えましたが、その後は再び99%台に安定しました。
この指標は、企業の固定資産が安定資金でほぼ完全に賄われていることを示し、財務状態が安定していることを反映しています。
総合評価
それでは、武田薬品を、成長性、効率性、現金の生成能力、財務の安定性、割安性の5つの観点から総合的に分析・評価したいと思いますが、続きの内容については、有料記事となります。
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