時代の革命児 テスラ
今回は、世界をリードするEV企業であるテスラの最新の決算と財務諸表のデータをまとめます。
テスラの事業は車両部門とエネルギー部門に分かれます。
車両部門では、EVのモデル3や、ピックアップトラックなどの開発・生産・販売を行っています。
エネルギー部門では、太陽光発電システムと家庭用や大規模な蓄電池製品であるPowerwallやMegapackの開発・生産・販売を手掛けています。
また、自動運転、人型ロボットの「オプティマス」開発やAIシステム「Dojo」なども手掛けています。
今回は、そんなテスラを、成長性、効率性、現金の生成能力、財務の安定性、割安性、決算のサプライズ度の6つの観点から総合的に分析・評価します。
基本情報はこちらの表のとおりです。
株価のチャート
株価のチャートは、こちらのとおりです。
過去5年間の株価は、プラス978.12%となっています。
最新の決算
テスラは、2024年4月23日に決算を発表しています。
EPSについては、アナリスト予想0.52ドルに対して、結果0.45ドルで、アナリスト予想を下回りました。
四半期の売上高については、アナリスト予想223億ドルに対して、結果213億ドル、前年同期比8.7%減で、アナリスト予想を下回りました。
自動車の売上高については、アナリスト予想208.2億ドルに対して、結果173.8億ドル、前年同期比19%減で、アナリスト予想を下回りました。
世界生産台数については、アナリスト予想48万6316台に対して、結果43万3371台、前年同期比12%減で、アナリスト予想を下回りました。
経営陣のコメント
テスラの経営陣は、2025年初めまでに手頃な価格の電気自動車を投入する計画を示しました。
2024年第1四半期の自動車販売量の減少は、フリーモント工場での最新モデル 3 の生産が初期段階であることと、紅海紛争による船舶の迂回やギガファクトリー・ベルリンでの放火による工場の操業停止が原因の一部と説明されています。
また、4月のサイバートラックの生産は週1,000台に達しました。
さらに、自動運転ソフトウェアFSD(フル・セルフ・ドライビング)のライセンス供与において、自動車メーカー1社と協議中であることも明らかにしました。
加えて、2月末から北米のスーパーチャージャーネットワークを他社の電気自動車の所有者にも開放したことが報告されています。
なお、テスラは株主向けの説明資料で、「自動車販売台数の成長率は2023年に達成した成長率よりも著しく低くなる可能性がある」と説明しています。
直近4回分の決算のサプライズ率
EPS
2023年第2四半期から2024年第1四半期までのEPSについては、1つの四半期で、アナリスト予想を上回っています。
アナリスト予想を何パーセント上回ったかを示すサプライズ率については、過去4四半期の平均はマイナス4.6%となっています。
売上高
2023年第2四半期から2024年第1四半期までのEPSについては、1つの四半期で、アナリスト予想を上回っています。
アナリスト予想を何パーセント上回ったかを示すサプライズ率については、過去4四半期の平均はマイナス2.27%となっています。
EPS
EPSとは、「Earnings Per Share」の略で、1株当たり純利益ともいわれます。
EPSからわかることは、企業の「収益力」と「成長性」の2つです。
数値が高いほど企業の収益力は高いと見ることができます。
また、同じ企業の当期EPSと前期以前のEPSを比較することで、企業が順調に成長しているか判断することもできます。
テスラのEPSは2023年第1四半期はマイナス20.6%と減少し、第4四半期もマイナス40.3%と大幅に減少しています。
2024年第1四半期もマイナス47.1%とさらに下落しており、業績が大きく悪化していることが分かります。
売上高の推移
テスラの売上高は2022年に安定した成長を示し、特に第3四半期には55.9%の高い成長率を記録しました。
しかし、2023年に入ると成長率が減速し、2024年第1四半期には初めてマイナス8.7%と前年同期比で売上が減少しました。
この傾向はテスラの業績が鈍化していることを示しています。
営業利益とは?
営業利益は、企業が本業で稼いだ利益です。
営業利益は売上高から、販売した商品の原価である売上原価と、販売のためのコストである販管費を除くと求めることができます。
営業利益の推移
テスラの営業利益は2022年に強い成長を示しましたが、2023年に入ると急激に減少し始め、特に2023年第3四半期には52.2%の大幅な減少を記録しました。
この減少傾向は2024年第1四半期にも続き、営業利益は56.0%減少しました。
営業利益率とは?
営業利益率は、売上高に占める営業利益の割合を示したものです。
この割合が高いほど、企業の本業の稼ぐ力が強いと判断できます。
営業利益率
テスラの2023年第2四半期から2024年第1四半期の営業利益率は、全ての四半期で、前年同期の利益率を下回り、利益率は下降傾向にあります。
「利益」は意見、「キャッシュ」は現実
損益計算書(PL)に記載される売上高などの「利益」は、本来であれば来期に立つ売上を、今期の売上として計上することや架空の売上を立てることで、意図的に「利益」を過大に見せること、いわゆる粉飾が可能であり、明らかな粉飾でない限り、このような粉飾を見抜くことは難しいと言われています。
他方、キャッシュフロー計算書(CF)に記載される営業キャッシュフローなどの「キャッシュ」は、実際にどれだけの現金が出入りしたのかを表し、意図的な調整をする余地がありません。
そのため、会計の世界では、『「利益」は意見、「キャッシュ」は現実』、または『キャッシュフローは嘘をつかない』とされています。
また、損益計算書では黒字にも関わらず、倒産してしまう「黒字倒産」の原因は、売上が発生しても、その入金、現金収入が大幅に遅れ、企業が現金不足に陥ることで起こるとされています。
そのため、企業の「利益」だけでなく、企業の「キャッシュ」を確認することが重要です。
営業キャッシュフロー
営業キャッシュフローは、企業の営業活動で得られた現金収入です。
テスラの営業キャッシュフローは2019年の24億500万ドルから順調に増加し、2022年には147億2400万ドルのピークに達しました。
2023年には132億5600万ドルとわずかに減少しましたが、全体的には大幅に改善されたパフォーマンスを示しています。
この成長は、テスラの営業効率の向上と財務健全性の強化を反映しています。
営業キャッシュフローマージンとは?
営業キャッシュフローマージンは、売上高に占める営業キャッシュフローの割合を示したものです。
この割合が高いほど、企業が売上から多くの現金収入を得ていることを意味し、現金を稼ぐ能力が高いと判断できます。
なお、「MarketHack流 世界一わかりやすい米国式投資の技法」によると、営業キャッシュフローマージンは、理想として15%から35%程度あると素晴らしいとされています。
営業キャッシュフローマージン
テスラの営業キャッシュフローマージンは2019年の9.79%から2021年には最高の21.36%に達しましたが、その後は減少し、2023年には13.70%まで下がりました。
このトレンドは営業効率の向上後、徐々に減少していることを示しており、財務健全性に影響を及ぼしています。
アクルアールとは?
アクルアールは、企業が現金収入を伴った質の高い利益をあげているかを判断する指標です。
アクルアールは純利益から営業キャッシュフローを引いた値で計算されます。
アクルアール=純利益(特別損益を除く)ー営業キャッシュフロー
純利益は、全ての収入から全ての支出を除いた利益であり、いわゆる会計上の利益です。
他方、営業キャッシュフローは、企業の営業活動で得られた現金収入です。
例えばA社のように、アクルアールがマイナスの場合、企業が多くの現金を営業活動から生み出し、現金収入が会計上の利益を上回っていることを意味します。これはA社が現金収入を伴う質の高い利益を生み出していることを示します。
逆に、B社のようにアクルアールがプラスの場合は、現金収入が会計上の利益を下回り、現金収入を伴わない質の低い利益を生み出している状況を示しています。
アクルアール
テスラのアクルアールは2019年から2021年にかけてマイナスを記録し、質の高い利益を示していました。
しかし、2022年にマイナスが減少し、2023年にはプラス1,741百万ドルに転じました。
この変化は、会計上の利益が実際のキャッシュフローを上回る状況を反映し、以前の高いキャッシュフローの質が変化している可能性があります。
自己株式調整済み負債比率とは?
自己株式調整済み負債比率は、企業の抱える負債が、純資産に対して何倍あるのかを示しています。
例えば、自己株式調整済み負債比率が2の場合、企業の負債が純資産の2倍あることを示します。
自己株式調整済み負債比率は、以下の式で求めることができます。
自己株式調整済み負債比率=負債÷(純資産ー自己株式)
この比率が低ければ、純資産に対して負債が少なく、財務が健全であると見なされます。
「史上最強の投資家 バフェットの財務諸表を読む力」によると、自己株式調整済み負債比率が0.80を下回ることが望ましいとアメリカの著名な投資家である、ウォーレン・バフェットは言います。
自己株式調整済み負債比率
テスラの自己株式調整済み負債比率は2023年第1四半期の0.77から持続的に改善し、2024年第1四半期には0.68を維持しています。
この比率はウォーレン・バフェットが推奨する0.80を下回っており、テスラの財務が低リスクで健全であることを示しています。
これは投資家にとって安心材料となり得ます。
固定長期適合率とは?
固定長期適合率は、企業の固定資産が、純資産と固定負債といった安定した資金で賄えているかどうかを示す指標です。
固定長期適合率は、以下の式で求めることができます。
固定長期適合率=固定資産÷(純資産+固定負債)
一般的に、この比率が100%以下であると、企業の固定資産が安定した資金でまかなえており、会社の財務状況が安定していると判断できます。
固定長期適合率
テスラの固定長期適合率は2023年から2024年初めにかけて一貫して100%以下を保持しており、74%前後で安定しています。
この比率が100%を下回ることは、テスラの固定資産が安定した資金で賄われており、会社の財務状況が健全であることを示しています。
総合評価
それでは、テスラを、成長性、効率性、現金の生成能力、財務の安定性、割安性、決算のサプライズ度の6つの観点から総合的に分析・評価したいと思いますが、続きの内容については、有料記事となります。
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