株主還元額は年間利益の約8倍!、高配当モンスター アステラス製薬
今回は国内医薬品メーカーの大手であるアステラス製薬の決算と財務データをまとめます。
アステラス製薬は、医薬品業界で国内二位の地位を保持しています。
前立腺がん治療が同社の主要な治療分野です。
国内で最大級の販売網を持ち、海外展開の比重も大きいです。
代表的な薬品には、前立腺がん治療薬「イクスタンジ」、免疫抑制剤「プログラフ」、過活動膀胱治療剤「ベタニス」があります。
基本情報は、こちらの表のとおりです。
今回は、アステラス製薬を、成長性、効率性、現金の生成能力、財務の安定性、割安性の5つの観点から総合的に分析・評価します。
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株価のチャート
株価のチャートは、こちらのとおりです。
過去5年間の株価のパフォーマンスは、プラス4.26%となっています。
最新の決算
アステラス製薬は4月25日に決算を発表しています。
24年3月期の連結最終利益は前の期比82.7%減の170億円に落ち込みましたが、従来予想の30億円を上回って着地しました。
25年3月期は前期比76.0%増の300億円に回復する見通しとなりました。これは、4期連続増収となります。
同時に、今期の年間配当は前期比4円増の74円に増配する方針としました。
直近3ヵ月の実績である1-3月期(4Q)の連結最終損益は332億円の赤字(前年同期は461億円の赤字)に赤字幅が縮小し、売上営業損益率は前年同期のマイナス13.6%からマイナス11.7%に改善しました。
2024年第4四半期累計の業績ハイライト
主力製品である前立腺がん治療剤「XTANDI(イクスタンジ)」、尿路上皮がん治療剤「PADCEV(エンホルツマブ ベドチン)」、急性骨髄性白血病治療剤「XOSPATA(ゾスパタ)」の売り上げが増加しました。
特に、「PADCEV(エンホルツマブ ベドチン)」は米国と欧州での売り上げが顕著に拡大しました。
また、2023年5月に米国で発売された閉経に伴う血管運動神経症状治療剤「VEOZAH(フェゾリネタント)」と、9月に発売された地図状萎縮を伴う加齢黄斑変性治療剤「IZERVAY(アバシンクタッドペゴール)」も売上収益に寄与しました。
製品別の売上高
アステラス製薬の主要な製品別売上高を見ると、最も大きな収益源は前立腺がん治療剤のイクスタンジで、売上は7,505億円、全体の約57.2%を占めています。
これに続くのは免疫抑制剤のプログラフで2,031億円(約15.5%)、過活動膀胱治療剤のベタニスが1,981億円(約15.1%)です。
その他の製品では、尿路上皮がん治療剤のエンホルツマブ ベドチンが854億円(約6.5%)、急性骨髄性白血病治療剤のゾスパタが551億円(約4.2%)、加齢黄斑変性治療剤のアバシンクタッドペゴールが121億円(約0.9%)、血管運動神経症状治療剤のフェゾリネタントが73億円(約0.6%)となっています。
これらのデータから、アステラス製薬の収益は特定の主力製品に大きく依存していることがわかります。
製品別の売上高の成長率
アステラス製薬の製品別売上高の成長率を見ると、尿路上皮がん治療剤「エンホルツマブ ベドチン」が最も高い成長を示し、前年同期比で92.1%の増加がありました。
急性骨髄性白血病治療剤「ゾスパタ」は18.3%、前立腺がん治療剤「イクスタンジ」は13.5%の成長を記録しています。
その他、過活動膀胱治療剤「ベタニス」が5.0%、免疫抑制剤「プログラフ」が2.2%の成長です。
なお、新製品の血管運動神経症状治療剤「フェゾリネタント」と加齢黄斑変性治療剤「アバシンクタッドペゴール」は成長率の比較データがありません。
地域別の売上高
アステラス製薬の地域別売上高を見ると、米国が最大の市場で、全体の約41.5%に相当する6,631億円の売上があります。
次に大きな市場は欧州及びカナダで、全体の約26.0%を占める4,156億円です。
日本市場も比較的大きく、全体の約16.9%に当たる2,701億円の売上があります。
中国、香港、台湾の市場は885億円で全体の約5.5%を占め、その他の地域での売上は1,591億円で全体の約10.0%です。
これらの数字から、アステラス製薬がグローバルに多岐にわたる市場で活動しており、特に米国とヨーロッパで強い影響力を持っていることがわかります。
地域別の売上高の成長率
アステラス製薬の地域別売上高の前年同期比成長率を見ると、欧州及びカナダ地域が15.5%の最高成長率を示しています。
次に、その他の地域が11.0%、中国、香港、台湾が10.6%の成長を記録しています。
日本市場は3.0%の成長であり、米国市場は1.6%と最も成長率が低いです。
これらの数値から、アステラス製薬は特に欧州及びカナダで顕著な成長を達成しています。
年間配当と配当利回りの推移
アステラス製薬の配当利回りと年間配当は2021年から2025年にかけて連続して増加しています。
2021年は2.47%で42円、2022年は2.62%で50円、2023年は3.19%で60円、2024年は4.26%で70円、そして2025年の予想は4.91%で74円です。
総還元性向とは?
総還元性向とは、会社が儲けた利益を、配当や自社株買いという形で、株主に対してどれくらい還元しているかを表す指標です。
総還元性向が高いほど、株主還元に力を入れている企業であることを示します。
ただし、株主への還元が多いことは、設備投資などに使用できる資金が少なくなる可能性があります。
総還元性向
アステラス製薬の総還元性向は2020年の65.5%から急激に増加し、2024年には799.4%に到達しました。
この数値の大幅な上昇は、同社の利益が大きく減少しているにも関わらず、配当と自社株買いを行っていることを示しており、株主に対する積極的な還元策を反映しています。
EPS
EPSとは、「Earnings Per Share」の略で、1株当たり純利益ともいわれます。
EPSからわかることは、企業の「収益力」と「成長性」の2つです。
数値が高いほど企業の収益力は高いと見ることができます。
また、同じ企業の当期EPSと前期以前のEPSを比較することで、企業が順調に成長しているか判断することもできます。
アステラス製薬のEPSは2023年第2四半期と第3四半期に増加しましたが、2024年度では全体的に大幅な減少が見られ、第4四半期には最も顕著な82.7%の減少を記録しました。
この業績の下落は、会社の事業戦略の大きな課題を反映しています。
売上高の推移
アステラス製薬の売上高は2023年を通じて安定した成長を示し、最高18.1%の増加を記録しました。
しかし、2024年第1四半期には売上が若干減少しマイナス1.8%を記録するも、その後持ち直し、第4四半期には17.0%の増加を達成しました。
経常利益とは?
経常利益は、本業における利益だけでなく、企業の持つ資産の運用利益や銀行からの利息など、事業を行って得た利益です。
経常利益は、売上高と営業外収益を足した値から、販売した商品の原価である売上原価と、販売のためのコストである販管費、営業外費用を除くと求めることができます。
経常利益の推移
アステラス製薬の経常利益は、2023年第2四半期には大幅な増加がありましたが、2023年第4四半期には大きな損失が発生しました。
2024年度に入っても不安定な状況が続き、特に第2四半期と第4四半期には大きく減収となっています。
経常利益率とは?
経常利益率は、売上高に占める経常利益の割合を示したものです。
この割合が高いほど、本業以外の収益や費用を含めた会社全体の収益力が強いと判断できます。
経常利益率
アステラス製薬の2024年第1四半期から第4四半期の経常利益率については、2024年第1四半期と第4四半期を除いた2つの四半期が前期の利益率を下回っており、利益率は下降傾向にあります。
「利益」は意見、「キャッシュ」は現実
損益計算書(PL)に記載される売上高などの「利益」は、本来であれば来期に立つ売上を、今期の売上として計上することや架空の売上を立てることで、意図的に「利益」を過大に見せること、いわゆる粉飾が可能であり、明らかな粉飾でない限り、このような粉飾を見抜くことは難しいと言われています。
他方、キャッシュフロー計算書(CF)に記載される営業キャッシュフローなどの「キャッシュ」は、実際にどれだけの現金が出入りしたのかを表し、意図的な調整をする余地がありません。
そのため、会計の世界では、『「利益」は意見、「キャッシュ」は現実』、または『キャッシュフローは嘘をつかない』とされています。
また、損益計算書では黒字にも関わらず、倒産してしまう「黒字倒産」の原因は、売上が発生しても、その入金、現金収入が大幅に遅れ、企業が現金不足に陥ることで起こるとされています。
そのため、企業の「利益」だけでなく、企業の「キャッシュ」を確認することが重要です。
営業キャッシュフロー
営業キャッシュフローは、企業の営業活動で得られた現金収入です。
アステラス製薬の営業キャッシュフローは2020年に3068億4300万円で38.2%増加しましたが、2023年には1724億7500万円に減少し、47.4%の大幅な減少を記録しました。
営業キャッシュフローマージンとは?
営業キャッシュフローマージンは、売上高に占める営業キャッシュフローの割合を示したものです。
この割合が高いほど、企業が売上から多くの現金収入を得ていることを意味し、現金を稼ぐ能力が高いと判断できます。
なお、「MarketHack流 世界一わかりやすい米国式投資の技法」によると、営業キャッシュフローマージンは、理想として15%から35%程度あると素晴らしいとされています。
営業キャッシュフローマージン
アステラス製薬の営業キャッシュフローマージンは2019年の17.07%から2020年に24.56%へ上昇しましたが、その後減少し、2023年には10.76%まで大幅に低下しました。
このトレンドは、営業効率の変動を示しており、特に最近の低下が顕著です。
アクルアールとは?
アクルアールは、企業が現金収入を伴った質の高い利益をあげているかを判断する指標です。
アクルアールは純利益から営業キャッシュフローを引いた値で計算されます。
アクルアール=純利益(特別損益を除く)ー営業キャッシュフロー
純利益は、全ての収入から全ての支出を除いた利益であり、いわゆる会計上の利益です。
他方、営業キャッシュフローは、企業の営業活動で得られた現金収入です。
例えばA社のように、アクルアールがマイナスの場合、企業が多くの現金を営業活動から生み出し、現金収入が会計上の利益を上回っていることを意味します。これはA社が現金収入を伴う質の高い利益を生み出していることを示します。
逆に、B社のようにアクルアールがプラスの場合は、現金収入が会計上の利益を下回り、現金収入を伴わない質の低い利益を生み出している状況を示しています。
アクルアール
アステラス製薬のアクルアールは過去5年間一貫してマイナスを記録しており、2022年には最大のマイナス2290億5300万円に達しました。
この一貫したマイナスは、会計上の利益を上回る現金収入があることを示し、質の高い利益を生み出していると評価できます。
自己株式調整済み負債比率とは?
自己株式調整済み負債比率は、企業の抱える負債が、純資産に対して何倍あるのかを示しています。
例えば、自己株式調整済み負債比率が2の場合、企業の負債が純資産の2倍あることを示します。
自己株式調整済み負債比率は、以下の式で求めることができます。
自己株式調整済み負債比率=負債÷(純資産ー自己株式)
この比率が低ければ、純資産に対して負債が少なく、財務が健全であると見なされます。
「史上最強の投資家 バフェットの財務諸表を読む力」によると、自己株式調整済み負債比率が0.80を下回ることが望ましいとアメリカの著名な投資家である、ウォーレン・バフェットは言います。
自己株式調整済み負債比率
アステラス製薬の自己株式調整済み負債比率は2023年度第4四半期には0.62と理想的でしたが、2024年に入り比率が上昇し、第4四半期には1.21に達しました。
この上昇は負債が純資産を上回ることを示し、財務リスクが高まっていることを示唆しています。
固定長期適合率とは?
固定長期適合率は、企業の固定資産が、純資産と固定負債といった安定した資金で賄えているかどうかを示す指標です。
固定長期適合率は、以下の式で求めることができます。
固定長期適合率=固定資産÷(純資産+固定負債)
一般的に、この比率が100%以下であると、企業の固定資産が安定した資金でまかなえており、会社の財務状況が安定していると判断できます。
固定長期適合率
アステラス製薬の固定長期適合率は2023年度第4四半期に81.28%で安定していましたが、2024年度には比率が上昇し、第4四半期には103.98%に達しました。
この上昇は、固定資産が固定負債と純資産で完全に賄われていないことを示し、財務安定性に潜在的な問題があることを示唆しています。
総合評価
それでは、アステラス製薬を、成長性、効率性、現金の生成能力、財務の安定性、割安性の5つの観点から総合的に分析・評価したいと思いますが、続きの内容については、有料記事となります。
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