株価急落した、人気高配当株
2024年1月9日に人気の高配当株である稲畑産業の株価は、3日ぶりに急落しました。
住友化学が5日の引け後に持ち分法適用会社の稲畑産業株式の838万6700株を売却すると発表したことに伴い、短期的な需給悪化を懸念した投資家の売り注文に押された形で稲畑産業の株価が急落しました。
今回は、そんな稲畑産業の最新の財務諸表を解説します。
この記事を読めば、稲畑産業の株を買うにあたって、最低限知っておくべき稲畑産業の業績や財務状況を把握することができます。
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稲畑産業とは?
稲畑産業は、化学専門商社であり、情報電子、化学品、生活産業、合成樹脂の 4つの分野で事業を展開しています。
稲畑産業は、市場開発、製造加工、物流、ファイナンス等の機能商品やマーケットの専門知識・ノウハウに基づく、企画・提案を行っています。
グローバルに事業を展開し、海外19カ国に約60拠点を展開しています。
最新の決算
稲畑産業は、2023年11月7日に2024年第2四半期決算を発表しています。
24年3月期第2四半期累計(4-9月)の連結経常利益は前年同期比3.4%増の106億円に伸び、従来の7.9%減益予想から一転して増益で着地しました。
通期計画の200億円に対する進捗率は53.3%となり、5年平均の51.5%とほぼ同水準でした。
直近3ヵ月の実績である7-9月期(2Q)の連結経常利益は前年同期比8.0%増の53.1億円に伸び、売上営業利益率は前年同期の2.8%から2.8%とほぼ横ばいでした。
一株当たりの配当額については、前年度実績を下限とし、減配は行わず、継続的に増加させていくことを基本方針としています。
また、総還元性向の目安としては概ね50%程度を目指すこととしています。
年間配当と配当利回りの推移
稲畑産業の年間配当は2020年の53円から2024年には120円へと増加し、同期間の配当利回りは4.49%から変動しています。
2022年には5.33%と高くなりましたが、その後2023年には4.28%へと減少しています。
このデータから、稲畑産業は年々配当額を増やしているものの、配当利回りは変動していることがわかります。
なお、1月12日時点の配当利回りは、3.99%となっています。
総還元性向とは?
総還元性向とは、会社が儲けた利益を、配当や自社株買いという形で、株主に対してどれくらい還元しているかを表す指標です。
総還元性向が高いほど、株主還元に力を入れている企業であることを示します。
ただし、株主への還元が多いことは、設備投資などに使用できる資金が少なくなる可能性があることに留意する必要があります。
総還元性向
稲畑産業の総還元性向は、2019年の30.0%から始まり、2022年には大幅に上昇して63.0%に達しました。
しかし、2023年には47.0%へと減少しています。
この推移は、稲畑産業が特に2022年に株主還元に力を入れたことを示しており、翌年はその割合が減少していることが分かります。
経常利益とは?
経常利益は、本業における利益だけでなく、企業の持つ株の運用利益など、事業を行って得た利益です。
経常利益は、売上高と営業外収益を足した値から、販売した商品の原価である売上原価と、販売のためのコストである販管費、営業外費用を除くと求めることができます。
経常利益の推移
稲畑産業の経常利益成長率を前年同期比で見ると、2022年第3四半期に14.6%の成長を示した後、2022年第4四半期から2024年第1四半期まで減少傾向にありましたが、2024年第2四半期では前年同期比で8.0%の成長を示し、回復傾向にあることが分かります。
経常利益率とは?
経常利益率は、売上高に占める経常利益の割合を示したものです。
この割合が高いほど、本業以外の収益や費用を含めた会社全体の収益力が強いと判断できます。
経常利益率
稲畑産業の経常利益率を前年同期比で見ると、2023年第3四半期は2022年第3四半期の3.28%から減少して2.71%となり、2023年第4四半期も2022年第4四半期の2.17%から2.13%へとわずかに下がりました。
しかし、2024年第2四半期では、前年同期の2.60%から2.79%へと改善しています。
このデータは、稲畑産業の経常利益率が一部の四半期では減少しているものの、2024年には若干の回復傾向にあることを示しています。
「利益」は意見、「キャッシュ」は現実
損益計算書(PL)に記載される売上高などの「利益」は、本来であれば来期に立つ売上を、今期の売上として計上することや架空の売上を立てることで、意図的に「利益」を過大ないし過少に見せること、いわゆる粉飾が可能であり、明らかな粉飾でない限り、このような粉飾を見抜くことは難しいと言われています。
他方、キャッシュフロー計算書(CF)に記載される営業キャッシュフローなどの「キャッシュ」は、実際にどれだけの現金が出入りしたのかを表し、意図的な調整をする余地がありません。
そのため、会計の世界では、『「利益」は意見、「キャッシュ」は現実』、『キャッシュフローは嘘をつかない』とされています。
また、損益計算書上では黒字にも関わらず、倒産してしまう「黒字倒産」の原因は、売上が発生しても、その入金、現金収入が大幅に遅れ、企業が現金不足に陥ることで起こるとされています。
そのため、企業の「利益」だけでなく、企業の「キャッシュ」の収入を確認することが重要です。
営業キャッシュフローマージンとは?
営業キャッシュフローマージンは、売上高に占める営業キャッシュフローの割合を示したものです。
営業キャッシュフローは、企業の営業活動で得られた現金収入です。
この割合が高いほど、企業が売上から多くの現金収入を得ていることを意味し、現金を稼ぐ能力が高いと判断できます。
営業キャッシュフローマージン
稲畑産業の年間営業キャッシュフローマージンは、2019年に1.97%であったのが、2020年には1.78%へとわずかに減少しました。
2021年には3.05%へと改善しましたが、2022年には-1.68%とマイナスに転じました。
その後、2023年には1.35%へと回復しました。
アクルアールとは?
アクルアールは、企業が現金収入を伴った質の高い利益をあげているかを判断する指標です。
具体的には、アクルアールは純利益から営業キャッシュフローを引いた値で計算されます。
アクルアール=純利益(特別損益を除く)ー営業キャッシュフロー
純利益は、全ての収入から全ての支出を除いた利益であり、いわゆる会計上の利益です。
他方、営業キャッシュフローは、企業の営業活動で得られた現金収入です。
例えばA社のように、アクルアールがマイナスの場合、企業が多くの現金を営業活動から生み出し、現金収入が会計上の利益を上回っていることを意味します。これはA社が現金収入を伴う質の高い利益を生み出していることを示します。
逆に、B社のようにアクルアールがプラスの場合は、現金収入が会計上の利益を下回り、現金収入を伴わない質の低い利益を生み出している状況を示しています。
アクルアール
稲畑産業のアクルアールは、2021年を除いて、一貫してプラスの値を示していることが分かります。
これは、現金収入が会計上の利益を下回り、現金収入を伴わない質の低い利益を生み出している状況が多いことを示しています。
自己株式調整済み負債比率とは?
自己株式調整済み負債比率は、企業の抱える純資産(自己株式を除く)に対して、負債がどれだけの割合を占めているのかを表す指標です。
自己株式調整済み負債比率は、以下の式で求めることができます。
自己株式調整済み負債比率=負債÷(純資産ー自己株式)
純資産は自社株買いによって比較的容易に増やすことが可能であるため、その影響を排除するために純資産から自己株式を除いています。
この比率が低ければ低いほど、純資産に対して負債が少なく、財務が健全であると見なされます。
「史上最強の投資家 バフェットの財務諸表を読む力」によると、自己株式調整済み負債比率が0.80を下回ることが望ましいとアメリカの著名な投資家である、ウォーレン・バフェットは言います。
自己株式調整済み負債比率
稲畑産業の自己株式調整済み負債比率を分析すると、2023年第2四半期から2024年第2四半期にかけてこの比率は1.14から1.09の範囲で推移しています。ウォーレン・バフェットが望ましいとする0.80を下回っていないため、これは比較的高い負債比率を示しており、純資産に対して負債の割合が高いことを意味します。