『個別株観測所』昼下がりのひとコマ
銭太郎「きらく所長!日立製作所とモダリスについて、どう見ているゼニ?」
きらく(上質なコーヒーを優雅に啜りながら)「ふふ、対照的な2銘柄ね。まずは日立製作所の第1四半期決算を詳しく見ていきましょうか」
あおい「全体の数字から申し上げますと、売上収益は前年同期比5%減の2兆2,114億円となりました。ただし、これは日立Astemo(自動車部品事業)の非連結化による影響で、これを除いた実質的な売上収益は14%の増収となっています」
きらく「そうね。より重要なのは収益性の改善よ。Adjusted EBITAは前年同期比715億円増(+42%)の2,425億円まで拡大し、利益率も3.6ポイント改善して11.0%になったわ」
銭太郎「でも事業がたくさんあって分かりにくいゼニ...」
きらく「それでは3つの主力セクターごとに見ていきましょう。あおいちゃん、順番に説明してくれるかしら?」
あおい「はい!まず、デジタルシステム&サービス(DSS)セクターです。売上収益は前年同期比16%増(為替影響除きで11%増)の6,340億円、Adjusted EBITAは259億円増の783億円まで拡大し、利益率も2.8ポイント改善して12.4%となりました。特にフロントビジネスが23%増と大きく伸びています」
きらく「金融機関向けシステムやクラウドサービスの需要が好調だったのが大きいわね」
あおい「続いて、グリーンエナジー&モビリティ(GEM)セクターです。売上収益は41%増(為替影響除きで28%増)の8,842億円、Adjusted EBITAは427億円増の859億円、利益率は2.8ポイント改善して9.7%です。タレス社の鉄道信号事業買収も業績に貢献し始めています」
銭太郎「すごい伸びゼニ!」
きらく「そうね。特に日立エナジーの収益性改善が顕著だったわ。そして最後のセクターは?」
あおい「コネクティブインダストリーズ(CI)セクターです。売上収益は3%増(為替影響除きで2%減)の7,140億円、Adjusted EBITAは114億円増の793億円、利益率は1.3ポイント改善して11.1%となっています」
きらく「注目すべきは各セクターでのLumada事業の成長ね。DSSで前年同期比19%増の2,770億円、GEMで29%増の1,080億円、CIで9%増の2,130億円と、すべてのセクターで成長を遂げているわ」
銭太郎「デジタル化が進んでいるんゼニね!」
きらく「ええ。そして大きな動きとしては、ジョンソンコントロールズ日立空調の40%持分を1,950億円で売却する予定よ。その代わりに、データセンター向け空調ソリューションの開発・製造拠点を取得する。より成長性と収益性の高い分野への転換を図っているの」
銭太郎「モダリスの方はどうなんゼニ?」
きらく(赤ワインに持ち替えながら)「モダリスは重要な局面を迎えているわ。第2四半期の決算を見ると、営業損失は8億3,895万円となっているの。前年同期の10億4,479万円から赤字幅は縮小しているものの、研究開発費が7億1,651万円と、依然として大きな投資が続いているわ」
あおい「経費削減の取り組みは進んでいるんですよね?」
きらく「ええ。一般管理費は前年同期の1億3,836万円から1億2,243万円まで圧縮しているわ。4月と6月末に経営合理化を実施し、7月にも米国子会社で追加の人員削減を行っているの」
銭太郎「でも主力の新薬開発はちゃんと進んでるんゼニ?」
きらく「主力開発品のMDL-101について、治験申請に向けてGLP毒性試験とGMP治験薬製造の準備を進めているわ。5月に前臨床データの論文が発表され、世界各国の患者さんや医師から治験参加への問い合わせが来ているのよ」
あおい「それは良い反応ですね!」
きらく「ただし、経営合理化の影響で、当初2024年内を目指していた治験申請(IND)が2025年前半にずれ込む見通しになったわ。一方で、オーファンドラッグ申請と小児希少疾患認定の申請を行っており、これらが承認されれば税控除や7年間の市場独占期間といった経済的メリットが得られる可能性があるの」
銭太郎「お金は大丈夫なんゼニ?」
きらく「第2四半期末時点での現金及び預金は12億7,828万円。前期末の18億8,343万円から減少しているわ。株主資本も前期末の13億4,666万円から10億8,013万円まで減少しているの」
あおい「株式の発行で資金調達もしていますよね」
きらく「そうね。第2四半期末までに発行済株式数が約3,943万株まで増加し、7月末にはさらに約315万株増えて約4,259万株になっているわ。希薄化の影響は大きいけれど、これも研究開発を継続するための必要な施策というわけね」
銭太郎「投資対象として、どっちがお勧めゼニ?」
きらく「銭太郎君、投資は自己責任が原則よ。でも、あえて言えば...日立は全セクターで増益、特にDXとGX分野での成長が顕著。2024年度は売上収益9兆円、Adjusted EBITA率11.5%という具体的な目標を掲げているわ。一方、モダリスはMDL-101の開発進捗が最大のポイント。現預金残高は1年程度の事業継続を見込める水準だけど、追加の資金調達が必要になる可能性も考慮する必要があるわね」
あおい「例えると、日立は様々な料理が揃った定食屋さんで、着実に新メニューも増やしている感じ。一方モダリスは、一品の革新的な料理の完成を目指している新進気鋭のシェフみたいですね」
きらく「その通りね。投資家の皆さんは、自分のリスク許容度に合わせて選ぶことが大切よ」
銭太郎「なるほど!勉強になったゼニ!」
きらく「ふふ、今日も良い議論ができたわね。引き続き両社の動向を注視していきましょう」
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【用語解説】
◆業績関連
・Adjusted EBITA(アジャステッド・エビタ):
企業の実質的な収益力を示す指標です。営業利益から買収に伴う無形資産の償却費を戻し入れ、持分法損益を加えて計算します。
・利益率:
売上高に対する利益の割合です。例えば利益率10%は、売上100円に対して10円の利益が出ていることを意味します。
・為替影響:
円高・円安による業績への影響のこと。海外での売上が多い企業は、為替の変動で見かけの業績が大きく変わることがあります。
◆事業関連
・DX(デジタルトランスフォーメーション):
デジタル技術を使って企業の業務やサービスを変革すること。
・GX(グリーントランスフォーメーション):
環境に配慮した技術やサービスを通じて事業を変革すること。
・Lumada(ルマーダ)事業:
日立が展開するデジタル技術を活用したソリューション事業のブランド名。
◆医薬品開発関連
・治験申請(IND):
新薬の臨床試験を始めるために規制当局に提出する申請書類。
・GLP毒性試験:
新薬の安全性を確認するための試験。厳格な基準(GLP)に従って実施されます。
・GMP治験薬製造:
医薬品の製造品質基準(GMP)に従って治験用の薬を製造すること。
・オーファンドラッグ:
希少疾病用医薬品のこと。開発支援制度があり、承認後の独占販売期間が通常より長くなります。
◆財務関連
・非連結化:
これまで連結決算に含めていた子会社を、決算から除外すること。
・株式の希薄化:
新株発行により既存株主の持株比率が低下すること。
・時価総額:
発行済株式数×株価で計算される企業の市場価値。
・自己資本比率:
総資産に占める自己資本(株主資本)の割合。財務の健全性を示す指標の一つ。