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鋼(はがね)の巨人 日本製鉄

鋼(はがね)の巨人 日本製鉄

今回は人気の高配当株で、2024年2月7日に決算を発表した日本製鉄の決算と財務諸表を解説します。

日本製鉄は、その名の通り、鉄鋼業界の巨人であり、鉄鋼製品の製造と販売を主軸に据えつつ、エンジニアリング事業、ケミカル&マテリアル事業、システムソリューション事業の4つの事業を展開しています。

基本情報は、こちらの表のとおりです。

今回は、日本製鉄を、成長性、効率性、現金の生成能力、財務の安定性、割安性の5つの観点から総合的に分析・評価します。

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株価のチャート

株価のチャートは、こちらのとおりです。

株価は、右肩上がりであり、高値圏にあることが確認できます。

過去5年間の株価のパフォーマンスは、プラス78.01%となっています。

最新の決算

日本製鉄は、2月7日に決算を発表しています。

24年3月期第3四半期累計(4-12月)の連結最終利益は前年同期比14.7%減の4409億円に減少しました。

他方で、通期の最終利益を従来予想の4200億円から4700億円に11.9%上方修正し、減益率が39.5%減から32.3%減に縮小する見通しとなりました。

業績好調に伴い、今期の年間配当を従来計画の150円から160円に増額しました。

直近3ヵ月の実績である10-12月期(3Q)の連結最終利益は前年同期比2.8%減の1406億円となり、売上営業利益率は前年同期の10.5%から8.7%に低下しました。

世界の鉄鋼市場

現在、世界の鉄鋼需要は前例のないほど厳しい状況に直面しています。

特に、中国では不動産市場の低迷が長引いており、国内需要の低下に加えて、海外からの需要回復も遅れています。

さらに、欧米では金融政策の引き締めと経済の先行き不安から、景況感が低いままです。

一方で、インドは石炭をスポット市場で買い続けており、中国も国内需要が落ち込んでいるにも関わらず、生産量を維持しています。

これらの状況が影響し、原材料の価格は高い水準に留まっています。

しかし、ASEAN諸国などでは製品価格が低迷しており、原材料と製品価格の乖離(デカップリング)が顕著になっています。

特に、海外の一般市場では、この価格の差(スプレッド)が史上最低レベルで続いており、産業全体の収益性に影響を及ぼしています。

セグメント別の事業利益

日本製鉄の2023年第3四半期累計の事業別利益は、製鉄事業で6658億8400万円(94.8%)、エンジニアリング事業でマイナス47億6000万円、ケミカル&マテリアル事業(1.8%)で123億6900万円、システムソリューション事業で239億5000万円(3.4%)です。

日本製鉄の事業別利益では、製鉄事業が全体の大部分を占め、主力としての地位を確認できます。

しかし、エンジニアリング事業は赤字で、改善が必要な状況です。

一方、ケミカル&マテリアルとシステムソリューション事業は利益を上げています。

セグメント別の事業利益の成長率

日本製鉄の2023年第3四半期累計の事業別利益で、製鉄事業は前年同期比で-8.3%減少しました。

エンジニアリング事業は-172.1%と大幅に減少し、ケミカル&マテリアルは-23.7%減少しましたが、システムソリューション事業は前年同期比で6.0%の成長を遂げています。

日本製鉄の状況を見ると、主力の製鉄事業などは減少している一方で、システムソリューション事業は成長しています。

予想PERの推移

PERは、Price Earnings Ratioの略称で、時価総額を純利益で割るか、株価を一株当たりの利益で割ることで求めることができます。

これは、株価と企業の収益力を比較することによって株式の投資価値を判断する指標として用いられます。

この倍率が高いほど、株価は割高と判断されます。

日本製鉄の4月5日の予想PERは7倍で、鉄鋼業界全体の平均PER(9.3倍)より低く、加重平均PER(7.1倍)に近いです。

これは、日本製鉄が業界平均に比べて割安であることを示しています。

PBRの推移

PBRとはPrice Book-value Ratioの略で、株価を1株当たりの純資産で割ったものです。

これは、現在の株価が企業の資産価値に対して割高か割安かを判断する指標として用いられます。

この倍率が高いほど、株価は割高と判断されます。

年間配当と配当利回りの推移

日本製鉄の年間配当は、2020年と2021年に比べ2022年に大幅に増加し、その後2023年に更に上がったものの、2024年予想では減少しています。

配当利回りも2022年の高水準から徐々に下がり、2024年予想では4.36%となっています。

総還元性向とは?

総還元性向とは、会社が儲けた利益を、配当や自社株買いという形で、株主に対してどれくらい還元しているかを表す指標です。

総還元性向が高いほど、株主還元に力を入れている企業であることを示します。

ただし、株主への還元が多いことは、設備投資などに使用できる資金が少なくなる可能性があります。

総還元性向

日本製鉄の総還元性向は、2019年に28.4%でしたが、2020年と2021年には0%となり、2022年に23.1%へと回復し、2023年にはさらにわずかですが増加して23.9%となっています。

EPS

EPSとは、「Earnings Per Share」の略で、1株当たり純利益ともいわれます。

EPSからわかることは、企業の「収益力」と「成長性」の2つです。

数値が高いほど企業の収益力は高いと見ることができます。

また、同じ企業の当期EPSと前期以前のEPSを比較することで、企業が順調に成長しているか判断することもできます。

日本製鉄のEPSは、2022年第1四半期から2022年第4四半期にかけて成長を示していましたが、2023年第1四半期から2023年第4四半期の会社側ガイダンスにかけては、前年同期比で減少する傾向が見られます。

特に、2023年第4四半期の会社側ガイダンスでは、前年同期比で32.3%の大幅な減少が予想されています。

売上高の推移

日本製鉄の売上高は2022年初頭から継続的に増加しており、2022年第1四半期の成長率27.7%から2023年第3四半期の6.8%まで、一貫して前年同期比でプラス成長を遂げています。

成長は時間の経過と共にやや鈍化していますが、依然として増収傾向にあります。

経常利益とは?

経常利益は、本業における利益だけでなく、企業の持つ資産の運用利益や銀行からの利息など、事業を行って得た利益です。

経常利益は、売上高と営業外収益を足した値から、販売した商品の原価である売上原価と、販売のためのコストである販管費、営業外費用を除くと求めることができます。

経常利益の推移

日本製鉄の経常利益は、2022年第1四半期に33.4%の成長を示しましたが、その後減少に転じ、2023年第3四半期には-11.0%と前年同期比で減少しています。

全体的に見ると、経常利益の成長率は波があり、一部の期間では成長が見られたものの、時間が経つにつれて経常利益は減少傾向にあります。

経常利益率とは?

経常利益率は、売上高に占める経常利益の割合を示したものです。

この割合が高いほど、本業以外の収益や費用を含めた会社全体の収益力が強いと判断できます。

経常利益率

日本製鉄の2023年第1四半期から第4四半期の経常利益率については、2023年第1四半期を除いた3つの四半期が前期の利益率を下回っており、利益率は下降傾向にあります。

「利益」は意見、「キャッシュ」は現実

損益計算書(PL)に記載される売上高などの「利益」は、本来であれば来期に立つ売上を、今期の売上として計上することや架空の売上を立てることで、意図的に「利益」を過大に見せること、いわゆる粉飾が可能であり、明らかな粉飾でない限り、このような粉飾を見抜くことは難しいと言われています。

他方、キャッシュフロー計算書(CF)に記載される営業キャッシュフローなどの「キャッシュ」は、実際にどれだけの現金が出入りしたのかを表し、意図的な調整をする余地がありません。

そのため、会計の世界では、『「利益」は意見、「キャッシュ」は現実』、または『キャッシュフローは嘘をつかない』とされています。

また、損益計算書では黒字にも関わらず、倒産してしまう「黒字倒産」の原因は、売上が発生しても、その入金、現金収入が大幅に遅れ、企業が現金不足に陥ることで起こるとされています。

そのため、企業の「利益」だけでなく、企業の「キャッシュ」を確認することが重要です。

フリーキャッシュフロー

フリーキャッシュフローとは、会社が事業活動で稼いだお金のうち、自由に使える現金です。

フリーキャッシュフローが多い企業ほど、経営状態が良好であり、将来的に、株主への配当や、自社株買いなどが行われることが期待されます。

日本製鉄のフリーキャッシュフローは、2020年以降、変動が見られますが、2022年には前年比で52.7%と大きく増加しました。

2023年も前年比で7.4%の成長を続けています。

営業キャッシュフロー

営業キャッシュフローは、企業の営業活動で得られた現金収入です。

日本製鉄の営業キャッシュフローは、2022年に前年比で-19.2%と減少したものの、2023年には前年比で17.2%増加し、改善傾向にあります。

営業キャッシュフローマージンとは?

営業キャッシュフローマージンは、売上高に占める営業キャッシュフローの割合を示したものです。

この割合が高いほど、企業が売上から多くの現金収入を得ていることを意味し、現金を稼ぐ能力が高いと判断できます。

なお、「MarketHack流 世界一わかりやすい米国式投資の技法」によると、営業キャッシュフローマージンは、理想として15%から35%程度あると素晴らしいとされています。

営業キャッシュフローマージン

日本製鉄の営業キャッシュフローマージンは、2021年に12.40%と高かったものの、その後は減少し、2022年と2023年には7.11%となり、安定しています。

これは、営業活動からの現金収入が売上高に占める割合が一定していることを示しています。

アクルアールとは?

アクルアールは、企業が現金収入を伴った質の高い利益をあげているかを判断する指標です。

アクルアールは純利益から営業キャッシュフローを引いた値で計算されます。

アクルアール=純利益(特別損益を除く)ー営業キャッシュフロー

純利益は、全ての収入から全ての支出を除いた利益であり、いわゆる会計上の利益です。

他方、営業キャッシュフローは、企業の営業活動で得られた現金収入です。

例えばA社のように、アクルアールがマイナスの場合、企業が多くの現金を営業活動から生み出し、現金収入が会計上の利益を上回っていることを意味します。これはA社が現金収入を伴う質の高い利益を生み出していることを示します。

逆に、B社のようにアクルアールがプラスの場合は、現金収入が会計上の利益を下回り、現金収入を伴わない質の低い利益を生み出している状況を示しています。

アクルアール

日本製鉄のアクルアールを見ると、2021年以前はマイナスの値を示しており、これは企業が多くの現金を営業活動から生み出し、現金収入が会計上の利益を上回っていたことを意味します。

これは、質の高い利益を生み出している状況と解釈できます。

しかし、2022年と2023年にはアクルアールがプラスに転じており、これは会計上の利益が現金収入を上回り、現金収入を伴わない質の低い利益を生み出している状況を示唆しています。

自己株式調整済み負債比率とは?

自己株式調整済み負債比率は、企業の抱える負債が、純資産に対して何倍あるのかを示しています。

自己株式調整済み負債比率は、以下の式で求めることができます。
自己株式調整済み負債比率=負債÷(純資産ー自己株式)

この比率が低ければ、純資産に対して負債が少なく、財務が健全であると見なされます。

「史上最強の投資家 バフェットの財務諸表を読む力」によると、自己株式調整済み負債比率が0.80を下回ることが望ましいとアメリカの著名な投資家である、ウォーレン・バフェットは言います。

自己株式調整済み負債比率

日本製鉄の自己株式調整済み負債比率を見ると、すべての四半期で1を超えており、ウォーレン・バフェットが望ましいと考える0.80を上回っています。

これは、企業の純資産に対して負債が多い状態を示しており、理論的には財務の健全性について、注意が必要です。

固定長期適合率とは?

固定長期適合率は、企業の固定資産が、純資産と固定負債といった安定した資金で賄えているかどうかを示す指標です。

固定長期適合率は、以下の式で求めることができます。
固定長期適合率=固定資産÷(純資産+固定負債)

一般的に、この比率が100%以下であると、企業の固定資産が安定した資金でまかなえており、会社の財務状況が安定していると判断できます。

固定長期適合率

日本製鉄の固定長期適合率は一貫して100%以下で、特に最近の四半期では71.85%から76.68%の間で推移しています。

これは、企業が固定資産を安定した資金で賄っており、財務が健全であることを示しています。

理論株価

理論株価は、企業の利益予想などをもとにした計算上の株価です。

今回は、企業の利益予想と1年後の予想PERをもとに、1年後の日本製鉄の株価を求めたいと思います。

理論株価に対して、低い株価で取引されている銘柄については、将来的に株価の上昇が期待されます。

それでは、日本製鉄の理論株価を求め、現在の株価とどれくらい乖離しているのかを確認したいと思いますが、続きの内容については、有料記事となります。

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続きの記事では、理論株価のほか、日本製鉄を、成長性、効率性、現金の生成能力、財務の安定性、割安性の5つの観点から総合的に分析・評価しています。

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