日本株

三菱重工業(7011) 2024年度第2四半期決算分析:エナジー部門で見えた"意外な強み"

【企業概要】

重工業の総合メーカー。エネルギー関連設備、産業機械、航空機部品、防衛装備品など幅広い製品を手がける。近年は脱炭素化関連の需要を取り込み、事業構造の転換を進めている。時価総額約2.7兆円の大手製造業。

【セグメント構成】(カッコ内は2024年度第2四半期売上収益構成比)

・エナジー(36.2%):発電設備、航空エンジン等      8,321億円

・プラント・インフラ(16.5%):製鉄機械、商船等     3,791億円

・物流・冷熱・ドライブ(27.5%):フォークリフト等    6,328億円

・航空・防衛・宇宙(18.8%):航空機部品、防衛装備品等 4,317億円

・その他(1.0%):電化・データセンター事業等       222億円

【受注残高の状況】(2024年度第2四半期末時点)

総額:9.2兆円(前年度末比+0.8兆円)

▼セグメント別内訳

・エナジー:4.5兆円(49.4%)

・プラント・インフラ:1.7兆円(19.0%)

・物流・冷熱・ドライブ:0.08兆円(0.9%)

・航空・防衛・宇宙:2.8兆円(30.5%)

・その他:0.02兆円(0.2%)

【業績ハイライト&背景】

▼収益性

・事業利益率: 8.2% (+3.3pts)

※事業利益=売上総利益-販管費+持分法投資損益等

→エナジー部門の採算改善と航空エンジン事業の回復が牽引

・EBITDAマージン: 11.6% (+3.4pts)

※EBITDA=事業利益+減価償却費

→高採算案件の増加とコスト管理の徹底により収益性が向上

▼財務状態

・自己資本比率: 34.9% (+1.7pts)

→収益力改善による利益蓄積と資産効率化が寄与

・D/Eレシオ: 0.40 (改善)

※D/Eレシオ=有利子負債÷自己資本(財務健全性の指標)

→手元資金の積み増しと有利子負債の適切なコントロールを実現

・フリーCF: △857億円 (前年同期比+955億円)

※フリーCF=営業CF-投資CF(実質的な手元資金の増減)

→運転資本の効率化が進むも、成長投資は継続

【セグメント別実績と動向】

▼エナジー部門(最注目セグメント)

・売上収益:8,321億円

・事業利益:1,032億円(+615億円)

成長の背景:

1. 米州でのGTCC大型受注

※GTCC(ガスタービン複合発電):高効率な火力発電方式

(懸念)「GTCCは化石燃料関連で、長期的には座礁資産化のリスクがあるのでは?」

→反論:短中期(〜2040年)は電力の安定供給に不可欠。また、水素・アンモニア混焼への対応も進行中で、トランジション期の主力電源として評価されている

2. アジアでの電力需要増に伴う設備投資拡大

(懸念)「中国・韓国メーカーとの価格競争で、シェア維持は困難では?」

→反論:高効率GTCCでの技術的優位性を確保。また、長期サービス契約による安定収益を積み上げ

3. 航空エンジン事業の採算改善

(懸念)「為替影響による一時的な改善では?」

→反論:為替要因を除いても採算は改善傾向。海外生産比率の向上でナチュラルヘッジも強化

→IRA(インフレ削減法)による米国のクリーンエネルギー投資加速が追い風

▼プラント・インフラ部門(構造変化の最前線)

・売上収益:3,791億円

・事業利益:281億円(+120億円)

成長要因:

1. グリーンスチール関連の設備投資加速

※グリーンスチール:CO2排出を抑制した製鉄プロセス

2. 製鉄機械の受注好調が継続

3. 環境規制強化に伴う設備更新需要

→カーボンプライシング導入を見据えた設備更新需要を着実に取り込み

▼物流・冷熱・ドライブシステム(短期的な課題)

・売上収益:6,328億円

・事業利益:269億円(△97億円)

減益要因:

1. 北米での認証遅れによる販売減

2. サプライチェーン混乱による費用増

→ハイパースケール型データセンター向け需要が新たな成長ドライバーに

※ハイパースケール:超大規模なデータ処理能力を持つ施設

▼航空・防衛・宇宙(回復基調が鮮明に)

・売上収益:4,317億円(+35.3%)

・事業利益:440億円(+165億円)

好調の理由:

1. 防衛装備品の納入進捗

(懸念)「防衛事業への依存度上昇でESG評価が低下するリスクは?」

→反論:専守防衛に特化した装備品が中心。全売上高に占める比率も20%程度でバランスを維持。また、デュアルユース技術(民生転用可能)の開発にも注力

2. 民間航空機の需要回復

※Tier1:航空機メーカーへの直接納入事業者としての地位

(懸念)「新興国メーカーの台頭で競争激化するのでは?」

→反論:高い参入障壁と認証要件により、既存Tier1の優位性は当面継続

3. 採算管理の徹底

(懸念)「人件費上昇で利益率の維持は困難では?」

→反論:自動化投資とDX推進により生産性向上。高付加価値領域へのシフトも進める

→防衛費増額(GDP比2%目標)と航空需要回復で、中期的な成長持続を予想

【2024年度通期見通し】

▼全社業績予想(修正後)

・受注高: 6兆円 (+2,000億円 上方修正)

・売上収益: 4兆9,000億円 (変更なし)

・事業利益: 3,500億円 (変更なし)

・当期利益: 2,300億円 (変更なし)

▼セグメント別業績見通し修正(事業利益)

・エナジー: 1,800億円 (+100億円)

→GTCCの採算改善、航空エンジンの回復基調継続が寄与

・プラント・インフラ: 400億円 (+100億円)

→製鉄機械の受注好調、環境関連案件の採算改善

・物流・冷熱・ドライブ: 600億円 (△200億円)

→北米での認証問題影響が想定以上に長期化

▼セグメント別受注高見通し

・エナジー: 2兆円 (+1,500億円)

→米州でのGTCC大型案件の積み上がり

・その他: 500億円 (+500億円)

→電化・データセンター事業等の拡大

【投資における重要ポイント】

1. エネルギートランジション需要の本格化

※トランジション:低炭素社会への移行過程

→GTCCやアンモニア関連など、低炭素化対応で優位性

2. 防衛関連事業の成長加速

→防衛費増額の恩恵を確実に享受

3. 航空機関連の需要回復

→民間航空機需要の本格回復局面入り

4. 高水準の受注残

→9.2兆円の受注残は今後の収益確保に寄与

【総合評価】★★★★(やや優れる)

▼評価理由

良い点:

・エナジー部門を中心とした収益性の大幅改善

・9.2兆円の受注残高による収益の安定性確保

・財務基盤の一層の強化(自己資本比率向上)

・グリーントランスフォーメーション関連の受注拡大

課題:

・物流機器事業での一時的な混乱

・為替変動による業績への影響

▼各項目別評価

収益性    :★★★★★(大幅な利益率改善)

成長性    :★★★★ (受注拡大基調)

財務健全性  :★★★★ (自己資本比率向上)

事業ポートフォリオ:★★★★(エネルギー転換への対応)

株主還元   :★★★  (配当は横ばい)

【懸念とその考察】

▼エナジー部門への懸念

懸念:「GTCCは化石燃料関連で、長期的には座礁資産化のリスクがあるのでは?」

→考察:

・短中期(〜2040年)は電力の安定供給に不可欠

・水素・アンモニア混焼への対応も進行中

・発電効率の高さから、トランジション期の主力電源として評価

▼為替感応度

懸念:「円安による一時的な増益効果が剥落するリスクは?」

→考察:

・海外生産比率の向上でナチュラルヘッジを強化

・受注時の為替予約でリスクをヘッジ

・外貨建て債権債務の管理を徹底

▼価格競争力

懸念:「中国・韓国メーカーとの価格競争で、利益率の維持は困難では?」

→考察:

・高付加価値領域(GTCC、航空エンジン等)に注力

・サービス事業の拡大で安定収益を確保

・技術的優位性のある製品に経営資源を集中

以上を踏まえた投資判断のポイント:

1. 短期:航空エンジン事業の回復モメンタム

2. 中期:エネルギートランジション需要の取り込み

3. 長期:グリーン化・電化関連の技術開発進展

三菱重工業、第2四半期事業利益86.7%増の大幅増益:「為替効果は23%に過ぎない」真の成長エンジンとは

https://note.com/observatory393/n/n215d80448689

人気記事

[st_af id="1"]
[st_af id="2"]
[st_af id="3"]

-日本株
-